「ペット避難所管理リーダー」育成テキスト 作成報告会
人もペットもすべての命を守るため、地域や立場を越えたつながりを
「ペット避難所管理リーダー」育成テキスト作成報告会 開催レポート

2026年12月13日、茅ヶ崎公園体験学習センターうみかぜテラスにて、「ペット避難所管理リーダー」育成テキスト作成報告会を開催しました。
この冬一番の寒気に包まれる中、受付開始早々たくさんの方々が会場に集まり、急遽スタッフが追加で席をつくるような場面も。ペット愛好家、茅ヶ崎市まちぢから協議会や自治会など地域の自治に携わる方、市役所や消防署職員など、参加動機も属性も多様な方々が集う様子に、ペット防災に対する関心の高さが伺えます。

会場の期待も高まる中、開会の挨拶ではマザーアース茅ヶ崎代表の山田秀砂に続き、海岸地区まちぢから協議会の会長・林正明さん、茅ヶ崎市防災対策課の課長補佐・山ノ上太郎さんからもお言葉をいただきました。

林さんは今年10月の海岸地区防災訓練でペット避難を取り入れるなどマザーアース茅ヶ崎と共に歩んできた経緯について語ると共に、「私自身にとってもペットは癒しであり生きがいでもあり、ペット避難は欠かせない課題です」と個人的な想いにも触れました。続いて山ノ上さんも、「ペットを飼っている方が多い茅ヶ崎では、災害時のペット避難は大きな課題と認識しています」と真摯な眼差しで語りました。

会場参加者も登壇者も改めて課題を認識したところで、いよいよイベント本編へ。山ノ上さんと同じく茅ヶ崎市防災対策課の藤原大さんによるプレゼンテーションへと進みます。
「マザーアースの取り組みを、より良い避難運営に活かしたい」
茅ヶ崎市防災対策課 藤原大さん
「茅ヶ崎市の避難所開設・運営に思うこと」というテーマでマイクを手にした藤原さん。まずは茅ヶ崎市における避難先の種類や、避難所の開設・運営の実態について整理した上で、ペット防災にも触れる流れで市の取り組みついて語りました。
藤原さんによると、茅ヶ崎市にある32の指定避難所(避難者が一定期滞在し避難生活を行う場所)には、それぞれに開設手順や施設の使用場所・使用用途、組織編成、避難者受け入れ等について細かく定められた運営マニュアルが存在し、その中でペットについても触れられているとのこと。

ただ、現状の運営マニュアルはあくまで避難者ベースで考えられたもので、ペット避難について詳しく書かれてはいません。それを補完しているのが動物愛護協議会が作成した「ガイドライン」の存在。ペット避難の基本的な考え方や避難所で受け入れ可能なペットの種類、飼い主の備えや健康管理などについて定められているものです。

茅ヶ崎・寒川動物愛護協議会作成「避難所でのペットの受け入れについて(ガイドライン)」(令和5年4月改訂)は、茅ヶ崎市のホームページからダウンロードも可能
ペット避難に関してさまざまな考え方がある中で、このガイドラインでは、「避難所におけるペットの飼育管理は飼い主の責任で行うことが原則である」と明記されています。一方で、ペットと飼い主が一緒に避難所に来る「同行避難」を推奨していながら、避難所の中では同居しない前提で書かれているとのこと。
藤原さんは、能登半島沖地震の被災地・石川県珠洲市の避難所において、公民館内に設置した一つのテント内で避難者とペットが一緒に生活し、鳴き声がしてもペットを愛する者同士がコミュニケーションを取りながら避難生活を送っていた様子を目の当たりにしたとのことで、
「どうしても避難所においてはまずは人間を優先に考えてしまい、ペットは後回しになる傾向があります。マザーアースの取り組みを参考にしながら、ペットの避難を担当している保健所の衛生課とも連携して、より良い避難所の開設運営に向けて取り組みを進めていきたい」
と今後への想いを語り、プレゼンテーションを終えました。
「人もペットも明確な基準のもと、避難所入所が安心できるものでありたい」
マザーアース茅ヶ崎 代表・山田秀砂
続いて登壇したのは、マザーアース茅ヶ崎代表の山田秀砂。今日のテーマである「ペット避難所管理リーダー」育成テキストについての講演へと進みます。内閣府の「官民連携による避難所運営の質の向上強化事業」に採択され、モデルケースとなった本取り組み。まずはこの育成テキスト作成の動機と目的について、山田自らの言葉で語りました。

「私たちはこれまで内閣府がこれまで推奨していたペット避難所のあり方とは少し異なる視点からの発想で、マザーアース茅ヶ崎独自の『ペット避難所管理リーダー』育成テキスト を作成しました。現在のガイドラインでは、被災直後からペットの管理をするのは飼い主となっていますが、ペット同行避難者も被災者の1人です。やっとの思いでたどり着いた避難所で不安を抱きながら自分たちでの管理は不可能だと考えています。訓練されたペット避難所管理リーダーを育成し、人もペットも明確な基準のもと、せめて発災直後の避難所への入所が安心できるものでありたいと私は考えています」

しかし、ここまでの歩みは平坦なものではありませんでした。茅ヶ崎市には犬猫合わせて約28,000頭が飼育されていると言われていますが、「動物より人間」という根強い意見や、指定避難所になっている学校は平常時はペット立ち入り禁止のためペット防災訓練ができないという規則など、さまざまな難関が立ちはだかりました。それでもマザーアース茅ヶ崎は、強い意志を持って1年間かけてオリジナルの育成テキストを作成し、ぬいぐるみを使用するなど工夫を凝らした訓練や講習を実施し、これまでにペット避難所管理リーダー(1級)を16名排出してきました。
この日は、こうした歩みの末に完成した育成テキストの内容が披露されました。この記事では詳しい内容についての言及は避けますが、2級テキストの作成にはペット栄養管理士の新倉みささん、救急対応や応急手当てについても学ぶ1級は、獣医師でシーサイドアニマルクリニック院長の成田直樹さんも加わり、信頼性も高い内容に仕上がっています。
さらに自主防災組織やペット愛好家など誰でもペット避難管理リーダー育成に携わることができるよう、「3ステップパッケージ」を用意。育成テキストは誰でも無料でダウンロードできるようにホームページに掲載しているほか、訓練実施に必要な物品の貸し出しも行っています。

プレゼンテーションの最後に、2026年の目標として「各避難所がペット避難管理リーダーを育成し、人とペットが共存できる避難所整備に着手していけるように周知活動を行う」「行政が行っている防災リーダー研修の選択科目としてペット避難所管理リーダーを入れ込んでもらえるように働きかける」の2点を掲げた山田。ビジョンを共有できる仲間と共に歩む日々に感謝を伝えると共に、
「3ステップパッケージをやってみてもいいと思った方は、ぜひ声をかけてください。私たちの考え方は内閣府にもしっかり届いていますし、避難所が変わっていくチャンスが来ていると思うので、みなさんも一緒に前に進んでいただければと思います」
と呼びかけ、熱のこもったプレゼンテーションを終えました。

「平常時の備えがペットを救う。飼い主の立場から防災を伝える」
えひめイヌ・ネコの会 代表・高岸ちはりさん
10分間の休憩のあとは、全国各地からお招きした2組のゲストが登場しました。1組目は「えひめイヌ・ネコの会」のみなさん。20年前より松山市の防災訓練においてペットの避難所を開設運営し、2016年からは「ペット防災管理士育成講座」を開催してきた、ペット防災の先駆け的な存在です。

代表の高岸さんによると、長年の行政を巻き込んだ働きかけの結果、今では愛媛県各地で本物のペットを同行する防災訓練が広がっているとのこと。訓練の場において「えひめイヌ・ネコの会」は受付でワクチン摂取の有無や登録番号などを確認し、ゲージでの預かり訓練も行うなどリアルな体験を提供しています。また、飼い主へ日頃からの心がけを説明したり、獣医師会への質問コーナーも設置したり一歩踏み込んだ企画を盛り込むことで、飼い主のみなさんも積極的に参加してくれているのだとか。

さらに高岸さんはオリジナルの「ペット防災管理士育成講座」の内容にも言及しました。毎年、年に一度の松山市総合防災訓練と併せて講座を開催しており、愛媛県動物救護本部の方々も参加。南海トラフ地震での避難所を想定したシミュレーション体験や、ペット避難所の運営についてのディスカッションなど充実した内容に、会場参加者のみなさんも深く頷く様子が見られました。
長年ペット防災に取り組む高岸さんが強調したのは、「平常時の備えがペットを救う」ということ。「飼い主としての日頃からの心がけが必要であること、そして避難所運営側と行政など関係機関の連携が重要であることをそれぞれに持ち帰ってください」と、参加者に呼びかけました。

プレゼンテーションの最後には、
「マザーアース茅ヶ崎さんとえひめイヌ・ネコの会は大きな違いがあります。私たちは飼い主の立場でペットの防災を広め、それに避難所運営側の人を巻き込もうとしています。でもマザーアースさんは、避難所の運営側から進めていらっしゃる、それがすごく素晴らしいと思います。とても難しいことで全国でも少ないのではないかと思いますが、運営者側が進めてくれたらペットの防災は進めやすく進むのも早いと思いますので、この先が楽しみです」
という発言も飛び出し、茅ヶ崎市民の参加者や関係者にとってとても心強いエールを受け取るような講演となりました。
「ペットと共に避難できる自治体関連系モデルを」
わんダフルフェス実行委員会 増茂謙二さん
この日最後に登壇したのは、東京都東大和市「わんダフルフェス実行委員会」のみなさんです。
2024年に結成し、現在は46名で活動をしているという「わんダフルフェス実行委員会」。結成のきっかけは、東大和市にドッグランやドッグカフェなどが少なかったこと。犬の飼い主がたくさんいるということのアピールとしてイベント「わんダフルフェス in HIGASHIYAMATO」を開催してきましたが、メディアを通してマザーアース茅ヶ崎の活動を知り、問い合わせてくださったことから交流が始まりました。

プレゼンテーションを行った増茂さんによると、ペット避難に関しては、東大和市も茅ヶ崎市と同じく、同行避難を基本としているそうです。ルールも避難所ごとに整備されていて、飼い主が管理することが基本であるということも茅ヶ崎市と同じ。ただ、東大和市は茅ヶ崎市に比べて避難所の数や受け入れ可能頭数が少ないことから、有事に備えたマナー啓発と飼い主同士のコミュニケーション強化を課題に感じているとのこと。
そこで意味を持ってくるのが、「犬と人との共生」を掲げた「わんダフルフェス in HIGASHIYAMATO」のようなイベントです。2年間で4回、来場者数は毎回2,000人を超える大規模イベントで、犬が自由に遊べる「わんダーランド」、キッチンカーやマルシェ、一芸コンテストや譲渡会などとともに、防災の啓蒙ブースではペット防災キットの紹介や、ペット情報マップの掲示、マナー啓発などを行っているとのこと。
今後は組織基盤の強化や外部連携の深化を目指すとともに、「地域を超えた共助」に取り組みたいという増茂さん。

「東大和と茅ヶ崎、海と山で環境はかなり違います。距離は離れていますが、車で1時間半で行き来できる距離ですので、海と山の地域特性を生かした相互支援を行い、ペットと共に避難できる自治体関連系モデルを実現していきたい」
という熱いメッセージと共に、プレゼンテーションを終えました。
フラットな対話の場が点からつくる、茅ヶ崎らしい防災のあり方
続いての質疑応答の時間も、活発な議論が展開されました。
終始真摯な眼差しで話を聞いていた大型犬の飼い主の方からは、「実際に災害が来たときに、ペットと自分、2つの命を持って避難することを考えると本当に憂鬱。犬も人間もパニックに陥る中で、避難所でもペットと一緒に避難させてほしいというのが本音です」という切なる発言も。これに対して山田は「今の話のポイントは2つあると思う」と前置きし、
「1つは避難時の不安、もう1つは避難所でも一緒にいたいという気持ち。この2点が心を重くしている原因かと思いますが、それはみなさんも同じだと思います。この中で私が考えて「できるかもしれない」と思うのは、ケージを置く場所を確保してもらうということですが、後は行政の力ですね」
と語りました。これを受けた茅ヶ崎市防災対策課の山ノ上さんは、
「避難所を前提に考えていらっしゃる方が多いですが、避難所の生活はとても過酷なので、津波の危険性がなくなってご自宅で過ごせる状態であれば自宅で過ごした方がいい。そこで必要になってくるのは、自宅でペットも一緒に過ごせるような備えです。好きなペットフードを蓄えておくことや、万が一別の部屋で過ごさなくてはならなくなった場合に備えて自宅でも環境を変えて過ごしてみるといったことが、非常時に意味を持ってくると思います」
と、あらゆる場面で欠かせない「日頃の備え」の重要性を強調しました。
その後も活発な質疑応答が続きましたが、行政と防災NPO、市民が入り混じって本音を語り合うこうしたフラットな対話の場が点から線、面へとつながり、今後の茅ヶ崎における防災のあり方を一つずつ築いていくのだと感じられた時間でした。

イベントの最後に閉会の挨拶としてマイクを手にしたのは、マザーアース茅ヶ崎の活動をいつも力強く支えてくださっている茅ヶ崎市まちぢから協議会副会長の丸山泰さんでした。
「ペットの避難というのは地域を守る立場としては避けて通れない道です。ペット愛好家の方々との共生社会を構築していくために、我々のような地域の人間こそ、ペット避難管理者育成テキストを勉強する必要があります。ぜひ茅ヶ崎市の防災リーダーの講習においても選択講座としてペット避難管理者育成を入れていただき、ペット愛好家じゃなくても最低限の知識を持つことで、自然体で安心してペット同行で避難できる茅ヶ崎の海岸地区になるといいなと願っております」

丸山さんの発言に会場からは大きな拍手が起こり、あたたかな空気の中でこの日のイベントは終了となりました。
穏やかに語る丸山さんの表情から、行政とNPO、市民がつながりあって歩んで行ける予感に満ちたエンディングとなり、会場を後にする参加者のみなさんからも「私もペット防災を学んでいきたい」「ホームページを見てみます」といった主体的で前向きな声を多く受け取ることができました。
飼い主にとっては家族同然のペットだからこそ、ペット防災は地域で生きる誰にとっても他人事ではありません。マザーアース茅ヶ崎は、今後もペット避難管理者育成を通して、その大切さを自治体や立場の壁を越え、幅広く伝えていきたいと思います。

このレポートを通して少しでも関心を持ってくださったみなさん、ぜひ完成したペット避難管理者育成テキストをダウンロードしてみてください。意志あるみなさまからのお問合せとご参加を、マザーアース茅ヶ崎のメンバー一同、心よりお待ちしています。
(撮影・執筆:池田美砂子)

